古書店インタビュー

あなたの本を未来へつなぐ

2019.08.23

古書店インタビュー

第1回「中央書房 ~受け継がれる古本屋~」

武蔵小金井駅から徒歩で北に5分ほどの小さな交差点。そのすぐ近くに中央書房の本店はある。

引き戸を開けると、真ん中と両側に合わせて3列の棚。

その隙間を埋めるように、足元にも本が積まれる。

 

商品の多くは思想や哲学などの学術書。

専門的な書物に付属する淡い黄色の函は経年変化によってしだいに茶色くなる。

そんな“茶色い古本”に囲まれて、奥の帳場に座るのは前沢浩治さん(51歳)。

50年以上続くこの店を、店主である父から任されることも多くなってきた。

しかし、初めから後を継ぐつもりだったわけではない。

 

やりたいことをやり、やるべきことを探って、たどり着いたこの場所。

「自分の親父ながら、いい本をそろえてるなと思います」

笑顔でそう話す前沢さんの瞳は今、次の世代へと注がれ始めている。

 

 

古本屋を継ぐ「覚悟」

 

── お父さんが始めたお店にご自身が立つことになるのは、前から予想していましたか?

 

前沢 いや、最初は特に古本屋になろうという気持ちはなかったですね(笑)。飲食業のバイトをしていたこともあって、高校を卒業した頃は料理屋でもやろうかなと漠然と考えていました。

たまたま同じ時期に車の免許を取ったのですが、ある日、練習がてら親父を乗せて走ることになったんです。吉祥寺のあたりで信号待ちをしているときでした。目の前に停まっている古紙回収車を見ていた親父が急に助手席を降りて、そっちのほうへ歩いて行ったんです。窓越しに運転手と少し話を交わすと、お金を渡して、代わりに薄いペラペラの雑誌を何冊か持って帰ってきました。親父が支払ったのは確か5000円くらいだったと思います。

それは、岡倉天心も創刊に関わっている『國華』という美術雑誌でした。そのあと、親父の代わりに古書組合の市場へ持っていったら、想像を絶する値段が付いたんですよ。もしかしたらそのまま処分されていたかもしれないものが、それだけ高額になったのには驚きました。

 

帳場で商品を手に取る前沢さん。背後の本棚には“茶色い古本”が並んでいる。

 

── そんなお父さんの姿を目の前で見て、前沢さんも古本屋の仕事に関心を持ち始めたのですね。

 

前沢 あと、この業界って横のつながりがすごく強いんですよ。小さい頃から、即売会とかで親父の手伝いをしていると、いろんな古本屋さんと知り合うんです。だから、僕にとっては、みんな親戚のおじさんみたいな感じなんですよね。

人付き合いが希薄になりがちな時代に、そういう古本屋のコミュニティで育ったというのも、大きかったですね。

 

── 前沢さんが古本屋に本格的に関わるようになって30年が経ちました。

 

前沢 そうですね。この10年ぐらいで、ようやく自分なりに本腰が入ってきたのかな。他の誰でもなくて、僕自身がこの店をやってかなきゃいけないんだという覚悟を持てるようになったとは思います。

親父も最近は、「お前がやっときゃいいじゃないか」と言ってくれることが多くなって。ついこの間までは「お前なんかにはわからない」だったんですけどね(笑)。

暗中模索を続ける中で、これからどういうふうにしていったらいいのか、ビジョンを描けるようになった気がします。

 

 

新しいコミュニティとして

 

── 中央書房は、本店の他に国分寺支店があります。支店を中心にネット販売にも対応しながら、本店はずっと実店舗を続けていらっしゃいますね。

 

前沢 地域の人々が、何気なく集まって、くつろげるサロンのような場所がだんだん減ってきてるじゃないですか。

そういうコミュニティって、人間にとっては絶対に欠かせないものだと思うんですよ。だから、誰もが気軽に立ち寄って、おしゃべりできる環境を、自分のお店を通して復活させたいなって。

 

中央書房本店の店構え。創業は昭和38(1963)年。

 

── 近所の人たちが、前沢さんと話したくて会いに来るような……。

 

前沢 そうなるといいですね。ここは古本屋なので、例えば雑談をする中で、「それについてはこの本に書いてあったよ」と伝えることもできる。

そういうやり取りがあれば、本に興味を持つだけじゃなくて、いざ自分の蔵書を売るとなったときに「あの人だったら、俺の本を次に活かしてくれる」と思ってもらえるかもしれない。古本屋がたまり場になることで、大切に持っていた本をこれから先へつなげる意識も高まりますよね。

 

── 古本屋というコミュニティで触れ合う人たちにとっても、思わぬ発見がありそうですね。

 

前沢 新しい出会いがあると、人生って変わるじゃないですか。自分自身がどういうふうに形成されたのかを振り返ったときに、その人にとってのルーツになるようなお店にできたらなと思ってます。

古本屋の主人やそこに集まるお客さんって、頑固な人もいれば性格の合わない人もいる。でも、個人のお店の面白さって、まさにいろんな人が集まるところにあるんですよね。人とのつながりは、僕が一番大事にしたいと思っていることなんです。

 

 

次の世代へ伝えるために

 

── 前沢さんご自身は、お子さんにお店を任せたいと思われますか?

 

前沢 どの子もまだ10歳前後なので、無理にやらせるのではなく、自発的に興味を持ってもらいたいですね。言ってみれば、古本屋の魅力をどう次の世代に伝えていくか、その“やり方”が問題だと思っています。

自分としては、せっかく古本屋をやるなら、子どもたちに心の底からやりたいと思ってもらえるような状況をつくりたいんです。

 

       店内の様子。通路には持ち込まれた買い取りの品や、本棚に並べ切れない商品が積まれている。

 

僕自身も、ちょっと前までは「なんで古本屋やってんのかな」っていうレベルだったわけじゃないですか(笑)。だから、こんなに面白いことをしながら、それでもなんとか生活できるんだよっていうところを、少しずつでも知ってもらいたいですね。

古本をお客さんから買い取って、次の人へ売り渡していくこの仕事の意義や喜びはもちろん、他にもやりたいことがあれば工夫次第でいくらでもできる。遊びも含めて(笑)。

そうやって、いろいろ楽しんでいる僕の姿を見せることで、「父ちゃんの仕事はどうなってんのかな」って思ってもらえたら成功ですね。

 

── もしも将来、お子さんが自分から「古本屋を継ぎたい」と言ってきたら、前沢さんはどんなことを心がけますか?

 

前沢 小さい頃から見てきたものを、同じようにずっと守り続けなきゃいけないっていう商売だと、退屈だろうし、経営も難しいかもしれない。

ここはここで、昔ながらの“茶色い古本”を扱う店でいいと僕は思ってるんです。その上で新しいことにも挑戦するし、それを見た子どもが「こういうことをやったらもっといいんじゃない?」って提案してくれたら、「じゃあ、お前がやってみたら?」って背中を押す。

子どもが自分でやってみて失敗した場合には、僕がその埋め合わせをすればいい。早いうちから実践を通して学ぶことで、古本屋を営む自覚も育てられるのかなと思っています。

 

中央書房のプロフィール