あなたの本を未来へつなぐ
2020.02.02
古書店インタビュー
早川伴司さん(79歳)がみちくさ書店を開業したのは1979年のこと。初めに店舗を構えたのは小平市だった。
1996年に現在地である国立駅南口へ。通路がまるごと本棚になったような不思議なつくり。奥へ奥へと足を踏み入れ、地下へ降りると、いつの間にか四方を専門書に取り囲まれる。
今回、お話を伺ったのは、番頭の青木耕史さん(47歳)。みちくさ書店に来て3年になる。新しい時代を見据えて、古本屋のバトンが今まさに受け継がれようとしている。
── みちくさ書店の番頭になる前はどのようなところで働いていたのですか?
青木 もともとは古本と関係のない別の業界で販売業をしていたのですが、2000年に結婚したのをきっかけに、妻の父が経営していたまつおか書房(八王子)で働くことになりました。
ちょうど大型の古書店が台頭してきた時代にあたります。昔ながらの古本屋にとっては、試練の始まりでした。これからは実店舗だけではやっていけない。まつおか書房でもインターネットを積極的に活用することになり、私はネット通販部門の担当として入社しました。
実は早くからパソコンに興味があって、1980年代の終わりには私も家庭用の端末も持っていたのですが、それでも古本屋の業務にIT技術を導入するというのは大変なことでした。
特に苦労したのは在庫管理です。当初はネットで注文が入っても、実物が見つからないなんてことがざらにありました。というのも、実店舗を運営していると、店にいらしたお客さんが本を動かしちゃうなんてことも当然のように起こり得ます。データと実際の商品をどう紐付けて管理していけばいいのか、模索しました。
番頭の青木耕史さん。地下にある専門書の棚の前で。
── 初めて古本に関わる仕事をしてみて、面白かった点、また難しかった点はどのようなところですか?
青木 古本屋は、大きく分けると二つのニーズに向き合ってきたのかなと考えています。
一つは本を売りたい、もしくは片付けたいというニーズ。
そしてもう一つは本が欲しい、読みたいというニーズです。
両輪をきちんと回転させることで、ようやく成り立つ。ここに古本屋の仕事の難しさがあり、面白さがあると思いました。
また、先ほどの「パソコンに興味がある」という話と矛盾するかもしれないのですが、最新の流行りを追うのが個人的にはあまり好きではないんです。疲れてしまうんですね。
そういう意味で、人類共通の財産でもある古本を扱えることにはやりがいを感じています。
── どのような経緯でまつおか書房からみちくさ書店へ移ることになったのですか?
青木 義父が亡くなった2010年以降は、まつおか書房の代表を務めていました。ただ2016年、いろいろな事情が重なり、私は店を出なければならなくなったのです。
そんなときに声をかけてくれたのが、みちくさ書店の店主である早川でした。同じ時期に古本屋を始めたということもあって、まつおか書房の社長とも仲が良かったようです。私も時々混ぜてもらって、3人で一緒に食事をしたりしていました。
早川と私には、親子ほどの年齢差があります。話を聞くと、いずれ引退してお店がなくなってしまうことに、寂しさを感じていたようでした。みちくさ書店の存続を願う早川の気持ちに応えたい。私もいつしかそう思うようになっていました。
現在も代表は早川なのですが、実務については全般を任せてもらっています。
── みちくさ書店の魅力はどのようなところにあると思われますか?
青木 この店の特徴は、店名によくあらわれていると思います。あまり堅苦しくならず、気軽に立ち寄れる場所にしたいという思いから、早川は創業時から「みちくさ書店」でやってきました。いい意味でゆるさがあって、格好つけないところが私は好きです。
店の前はバスのロータリーになっているのですが、停留所で待っているお年寄りが実際にフラッと立ち寄ってくださったりもします。
また、近所には大学もあるので、行き帰りの途中に店内をのぞいていってくれる学生さんも多いんです。そのため、専門書もよく売れます。
建物の通路の壁一面が本棚となっている。
── お店で特に力を入れているのはどのような点ですか?
青木 みちくさ書店が昔から得意としているのは、出張買取です。早川には40年、私にも20年の経験があるので、臨機応変の対応ができると自負しています。
買取依頼を見てみると、一般のご家庭で断捨離をしたい、大学の研究室を片付けたい、あと最近では“終活”の一環として、親族に迷惑をかけないうちに本を処分したいなど、お客様のご要望はさまざまです。
お一人おひとりの話を丁寧に伺い、できる限りお応えする中で、多くの方に満足していただけていると感じています。
── それほどまでに出張買取にこだわる理由は何ですか?
青木 一つは、年配の方からのご依頼が少なくないからです。身体が思うように動かず、階段の上り下りも大変。そういう人が本を整理したいときに助けになれたらなと。
また、送料がどんどん値上がりしているので、宅配買取でこちらに送ってもらうと、どうしても割りに合わなくなってしまうことがあるんです。
あと、出張買取に伺うと、本以外にも処分したいものや、売りたいものが出てきたりします。
うちでは、こうした諸々の道具類も一緒に買取してきました。
その受け皿として去年オープンしたのが古道具屋「蚤の市みちくさ」です。
日本の茶碗から異国の人形まで、いろいろなものを揃えています。
みちくさ書店から歩いてすぐのところにあるので、国立駅にいらしたときはぜひお立ち寄りください。
── みちくさ書店の今後の展望についてお聞かせください。
青木 テナント契約の関係で、今年の春に実店舗を移転する予定です。と言っても、同じ国立市内で、しかも現在の場所からすぐ近くのところなのですが。
このタイミングで、本棚の構成だとか、ターゲットにする客層だとか、またさらには経営のあり方も含めて大きく見直そうと思っています。そういう時期にきているかなと。
早川が掲げてきた「みちくさ書店」の屋号を守るために、やるべきことはすべてやる。
私自身も、古本屋を続けていきたいという思いを一層強くしています。
書店から歩いてすぐの古道具屋「蚕の市みちくさ」
── これからお店にとって課題となるのはどのようなことだと思われますか?
青木 先に述べた二つのニーズという点では、本を売りたい、整理したいという要望は今後ますます増えてくると思います。一方で、本を買いたいニーズをどれだけ拡大できるかがポイントになってくるでしょうね。
現在、みちくさ書店では、私と店主を含めると7名のスタッフが働いています。
みんなやりがいをもって仕事をしてくれていますが、ビジネスである以上、給料も上げてあげたいし、
少しでも豊かな暮らしができるような舵取りをしていきたいと思っています。
── 本の買い手を増やすということは、どの古本屋さんにとっても大きな挑戦になりますね。
青木 古本屋業界のいいところは、
お互いがライバルであると同時に、仲間でもあるということです。
どういう悩みを抱えているか、またどうやって乗り越えたかということについて、
比較的ざっくばらんに情報交換しています。ちょっと飲みに行って話をすることもありますし。
もちろん、お客様からの買取という面では、私たちも懸命に競争しています。
それぞれの店には、仕入れを確保するための“必殺技”があるものです。
でも、そこでお互いにつぶし合いをすることなく、切磋琢磨できるような環境が古本屋の間にはあると私は感じています。
しのぎを削りながらも、誰かが倒れそうなときには手を差し伸べる。そんな古本屋の緩やかな連帯で、業界を活性化していけたらいいですね。
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