古書店インタビュー

あなたの本を未来へつなぐ

2020.02.17

古書店インタビュー

第7回「東京書房 ~後代に伝える~」

創業から70年以上になる東京書房。和田達弘さんはその三代目にあたる。

一緒に働くスタッフのほとんどは、高校時代の同級生だ。

 

川崎市の宮崎台駅から徒歩5分のところに店舗兼倉庫を構える。

青空の下、駐車スペースに本棚を並べて大売り出しをすることも。

 

「東京」の名の付く店がなぜ神奈川県にあるのか。

和田さんは時折、優しい笑顔を交えながら来し方を振り返った。

店主の和田達弘さん(右)と、スタッフのみなさん。

 

とにかく本を捨てない祖父

── 東京書房はいつ、どのようにしてできたのですか?

 

和田 戦後まだ間もない1948年に、僕の祖父が自由が丘で店舗兼住宅の貸本屋を始めました。地名の響きがいいと、祖母が場所を決めたそうです。

ただ単に本を貸し出すだけではなく、専門的な知識を生かして売買もしたいということで、翌年には古本屋になりました。

店名は当時から今に至るまで、変わらず「東京書房」でやっています。そこには、東京で一番の本屋になりたいという祖父の思いがありました。

 

── お祖父さんのことで、何か印象に残っていることはありますか?

 

和田 祖父はとにかく本を捨てない人でした。自宅の書庫を片付けたときに驚いたのは、商品として売れないようなものばかりなんです。小説が出てきても、高値の付きやすい初版ではなかったりする。

当然、祖父もプロなので、どういう古書に価値があるのかはわかっていた。結局、値打ちのあるなしに関係なく、自分の好きなものを残していたんですよね。

 

── 和田さんが東京書房の三代目店主になられた経緯を教えてもらえますか?

 

和田 高校を卒業後は、ミュージシャンを目指してバンド活動をしていました。音楽で生計を立てるのに限界を感じて、眼鏡屋で働き始めたのが20歳ぐらいのとき。その5年後の1996年に、祖父が亡くなります。二代目店主だった僕の叔父はすでに他界しており、はっきりとした継ぎ手もいませんでした。

親族で集まって、「東京書房をどうする?」という話になったときに、一斉にみんなの目が僕のほうを向いたんです。古本屋で食べていけるのかという不安もあったのですが、祖父の大切にしていたお店を後代に伝えたいと思い、二つ返事で引き受けました。

所せましと本が並ぶ東京書房の店舗兼倉庫。

 

 

古本の〝職人〟を目指して

── 自由が丘を離れることになったのはなぜですか?

 

和田 僕自身は祖父のやっていた場所でずっと続けるつもりだったのですが、建物がどうしても老朽化していきます。2015年頃、その物件の権利を持っていた親から「建て替えに同意してくれ」と言われたんです。

地元の人から愛されてきた店を壊してしまうのには抵抗がありましたが、改築後も一階に東京書房を入れるという条件で、承諾しました。

ところが、いざ新しいビルが建ってみると、その一階に「貸店舗」と貼り紙がしてあるんです。親に聞くと、テナントを募集して、家賃収入を得たいとのこと。「全然話が違う!」と、もう大喧嘩です(笑)。

何度も話し合った結果、5階建てのビルの4階に東京書房を残すことになりました。

 

── ビルの建て替えで、経営に何か変化はありましたか?

 

和田 エレベーターがないので、本をいっぱい買う人もいなければ、売りに来る人もいない。しばらくは赤字続きでした。

それでもお店を維持しなきゃと思っていたんだけど、僕がそこでうつ病になってしまうんです。以前からほとんど休みなく働きっぱなしだったせいでもありました。

体を休めるために入院すると、今度はスタッフが次々と辞めてしまった。2017年の春に退院するときには、もう店をたたもうと心に決めていました。

数年前から一緒に遊ぶようになった同級生の松方が僕のところへ来て、「東京書房で働きたい」と言ってくれたのはちょうどその頃のことです。

それからの2カ月間、古本のことを松方に知ってもらおうと、毎日のように夜中まで語り合いました。2019年の5月に今の場所へ移転したのも、二人で練った作戦の一つです。松方には今も最前線で活躍してもらっています。

 

── 東京書房の特徴を一つ挙げるとしたら何ですか?

 

和田 僕らの強みは、スタッフ一人ひとりが古本の〝職人〟を目指して腕を磨いていることです。

本の価値を見極める際には、経験と情報と人脈が決め手となります。例えば知らない本と出会ったときに、似たような本を目にしたことはあるか。装丁家などの有用なキーワードを見つけられるか。それでもダメなら、相談に乗ってもらえる人はいるか。こうした端々の手がかりを頼りに、値段を付けていくわけです。

うちのスタッフは、基本的にはそれぞれが独自の人的ネットワークを築いています。買取依頼をされるときに、松方であれば松方ご指名のお客さんがいるのもそのためです。

出張買取から戻って来たバンの荷台には本がぎっしり詰まれている。

 

 

子どもを対象にした職場体験

── 古本の〝職人〟として気持ちが高ぶるのはどのようなときですか?

 

和田 出張買取でご自宅などへ伺うと、欲しいものに当たらない場合のほうが多い。実は、そこからが僕らの勝負なんです。

狙っていた本ではなかったときに、それをどう料理して、どう世の中に届けていくか。いらないからといって突き返すのではなく、お客さんの要望にできる限り応える。そこが〝職人〟の腕の見せどころです。

 

── 東京書房では、子どもたちを対象にした職場体験なども行っているそうですね。

 

和田 僕らの業界は、参入するお店が十分にあることで初めて成り立ちます。横のつながりによって支え合っているんです。

この先の20年、30年を考えたときに、今の小学生の中から「将来、古本屋さんになりたい」という子たちが少しでも出てこないと、業界そのものが続かない。そう思ったのがきっかけでした。

そこで、古本屋がどういう仕事をやっているのか、小学生に実体験してもらえるような企画をスタッフと一緒に考えたんです。募集のチラシを小学校や店頭で配ると、予想をはるかに上回る反響がありました。抽選にしようかという話もあったのですが、せっかくなら応募してくれた全員に来てほしいと、2019年の夏に1カ月かけて実施。総勢で100人以上の子どもたちが参加してくれました。

現在、僕らが拠点としている川崎市は「読書のまち」であることを謳っているので、古本屋の職場体験は今後も続けていきたいと思っています。

 

── 新しい場所へ移ってきても、変わらず地元を大事にされているのはなぜですか?

 

和田 これが東京書房の流儀なんです。僕らがどんなことをやっているのか、地域の人たちに知ってもらえば、その分だけ仕事への信頼も深まります。

去年は振り込め詐欺の防止を呼びかける活動に協賛し、神奈川県宮前警察署から感謝状をいただきました。宮前消防署が中心になって行った「熱中症対策」の運動にも参加しています。

創業時から受け継いできた地域密着の店づくりに、これからも積極的に取り組んでいきます。

 

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