あなたの本を未来へつなぐ
2019.10.23
古書店インタビュー
京急の日ノ出町駅から南に歩いて5分。ナインブリックスは神奈川県道218号沿いにある。
店内のあちこちに吊るされた不気味な仮面。棚に並ぶ「UFO」「魔術」「怪奇」といった文字。
そして、スピーカーからほどよい音量で聞こえるみうらじゅんの声。
「うちでは心霊写真の買取もやっています」
店主の橋本征太さんが飄々と話す物語は、
この店の謎を解き明かすだろうか。
それともより一層、深めるだろうか。
── ナインブリックスの特色ともなっている“オカルト”に橋本さんが興味を持ち始めたきっかけは何ですか?
橋本 時代背景として、1970年代の初頭に日本は熱狂的なオカルトブームに包まれます。
ノストラダムスの予言に関する本が出版されたり、映画『エクソシスト』が公開されたり、来日したユリ・ゲラーが「スプーン曲げ」で一躍有名になったりしました。
僕が生まれたのは1980年。ピークは過ぎていたものの、都市伝説や超常現象への関心はまだ色濃く残っていました。
あの時代を生きた子どもたちの多くが、テレビ番組や雑誌を通して、自然とそういった不思議な話に触れていたように思います。
店主の橋本征太さん
── オカルトといってもさまざまありますが、特に印象に残っているものは何ですか?
橋本 小学館に「入門百科」という人気のシリーズがありました(現在は「入門百科+」が刊行中)。
1冊ごとに異なるテーマを扱っているのですが、野球から宇宙人まで、ジャンルの幅が非常に広いんですね。
僕が5歳くらいのときに従兄弟の家に遊びに行ったら、その「入門百科」の中でも妖怪に関するものがいくつか並んでいました。
作者は漫画家の水木しげる。書かれてあることは当時の僕には難しすぎてよくわからなかったのですが、絵を見て衝撃を受けたんです。
「妖怪ってすごい」と。
世界中の美術作品の要素を取り入れた水木しげるの独特な表現を見て、不可思議なものに惹かれたのはもちろんですが、絵そのものへの興味も掻き立てられました。
── 幼い頃の“妖怪”との出会いが、橋本さんのその後の人生にどう関わってくるのですか?
橋本 小学校に入って、美術の教科書をパラパラめくると、例えばサルバドール・ダリのなんとも言いようのない絵が載っていたりするんですよね。
ますます現実離れした神秘の世界にのめり込んでいって、いつからか自分もそんな作品をつくってみたいと思うようになっていました。
大学へ進学するにあたって、地元の大阪を離れたのが1998年。専攻したのは造形です。
ちょうどインターネットが普及し始めていた時期で、この新しいメディアとアートの融合に取り組みました。
── 古本屋を開業する前は、どのようなお仕事をされていたのですか?
橋本 大学を卒業してから一年ほど新刊書店でバイトをして、そのあとは東京へ出てきてウェブ関連の仕事をしていました。
その職場を離れたのは2014年くらいです。最初から古本屋をやろうという意図があったわけではありません。
とにかく仕事が忙しかったので、少しゆっくり考える時間が欲しくなったんですね。
正直に言うと、そもそも古本屋にはあまり馴染みがなかったんです(笑)。
読書はすごく好きだったんですけど、僕はどちらかというと近所の図書館によく通っていました。
ナインブリックスの外観
── 最終的に「古本屋」という形態を選んだのはなぜでしょうか?
橋本 いつかは本屋をやりたいという気持ちはあったんです。とはいえ、新刊の書店を経営するのはハードルが高い。
取次店との取引や定価による販売など、商品が流通する仕組みも複雑です。
古本屋であれば、店に並ぶ本の値段は自分で付けられるし、身につけたインターネットの知識を活かしてウェブサイトの立ち上げも可能です。
これなら自分の手が届く範囲でことが進むと、最初は軽い気持ちで始めました(笑)。
ただ、どこにでもある大型の古書店をそのまま小さくしたようなお店ではダメだと思ったんです。
何かコアになるものが欲しいなと。そこで、好きだったオカルトをメインに扱う古本屋にしました。
── 「ナインブリックス」という店名の由来について教えていただけますか?
橋本 「ブリックス」という英単語には、「レンガ」の他に「信頼できる人」という意味もあります。
お客さんに安心して頼ってもらえるような存在になりたいと思ったんです。
あと、オカルトのお店にちなんで、頭に「ナイン」を付けました。
ユダヤ教の神秘思想であるカバラの数秘術では、一桁の自然数の中で一番大きい「9」は「完成の一歩手前」を表しています。
要はそこで出来上がりではないんですね。完成に向かって常に成長し続けたいという僕自身の気持ちも込めました。
── ナインブリックスを開業したのはいつ頃ですか?
橋本 2015年1月、まずはネットショップをオープンしました。僕自身の経験のなさを考えると、いきなり実店舗から始めるのはちょっと気が引けたんです。
古書組合に加盟すると業者間の本の交換会である市場に行けるようになるので、最初はそこで商品を仕入れていました。
基本的なルールは先輩たちが教えてくれます。ただ、欲しいものを手に入れるテクニックについては、何度も失敗を重ねながら、傷だらけになって覚えました(笑)。
日々の資金繰りや値付けの仕方について、自分で一から学んでいくのは決して容易ではありませんでした。
でも、会社員の頃に比べれば性に合っているというか。大変なことも含めて、楽しみながらやっています。
店内のいたるところに不気味な仮面が…
── ネットショップを営みながら、それでも実店舗をやろうと思ったのはなぜですか?
橋本 自分で淡々と仕入れをして、ネットで出品して、売れたらまた仕入れをする。そんな作業をただ繰り返しているだけだと、思いがけないことってなかなか起きないんです。
お客さんに立ち寄ってもらう場をつくることで、面白い企画をやったり、お店としてできることも増えるんじゃないかと考えました。それがひとつの理由です。
もうひとつは、古本屋の経営に関してです。僕の場合、広告費にお金をかけられなかったこともあって、ネットショップのみを運営していたときは買取依頼がそんなにありませんでした。
実店舗を持つと、例えば通りすがりに看板を目にした人や、近所の人に、気軽に本を売りにきてもらえるんですね。
実際、2017年の年末に今の場所にナインブリックスを出してから、買取の問い合わせがたくさん来るようになりました。
特にお店の前が大通りということもあり、車で持ち込まれる方が多いです。
── 橋本さんには古本一括査定.comのサービスをよく活用していただいています。ご感想を伺えますか?
橋本 古書業者にとっては、新しい市場がもうひとつできる感覚に近いかもしれません。個人的にも、買取の動線が1本増えるのはありがたいと思って、参加させてもらいました。
お客さんから送られてくる写真をもとに査定する手法についても、専門書を多く扱う当店のような場合には問題がないと感じています。
かつてウェブに関わる仕事をしていたひとり、また今は古本屋を営むひとりとして、このサービスの今後にとても興味を持っています。
参加する古書店と本を売りにくるユーザーの数が順調に伸びていけば、面白い展開になるでしょうね。
安心して信頼できるお店へ買取依頼できるサービス「古本一括査定.com」