2020.05.31
コラム
古本に魅せられた人たちは、日本の外にもいる。
本シリーズでは、そんな古本好きが愛してやまない世界各地の古本屋に取材を試みる。
なぜ今、“世界”なのか。
本年3月、世界保健機関(WHO)が「パンデミック(感染症の世界的な流行)」を宣言した。
国境をものともせずに広まっていく新型コロナウイルス。休業要請によって実店舗の古本屋が大きな打撃を受けたのは、日本だけではない。
アジアやヨーロッパ、アフリカ、はたまた地球の裏側にいる古書店員の声を届けることで、国を越えて共有される古本への思いや現下の痛み、さらにはそれぞれの文化間の違いを浮き彫りにできたらと願っている。
最初にご登場いただくのは、アメリカはニューヨークのストランド・ブックストア(Strand Book Store)。古本以外にも、新刊書やオリジナルの文具などを扱っている。
90年以上続く老舗は、どのような手法で客をひきつけ、またこのコロナ禍にどのように向き合っているのか。
広報担当のJames Case Odumさんにお話を聞いた。
ストランド・ブックストアの外観
ストランド・ブックストア(以下「ストランド」)がニューヨーク4番街の一角に誕生したのは1927年のことです。「ブック・ロウ(“本屋”通り)」と呼ばれていたその界隈には、6つの街区にわたって48もの書店が並んでいました。
創業者のベンジャミン・バスは当時25歳。たとえ質素なお店であっても、本が大切に扱われる場所にしたいと考えていました。
のちに二代目のオーナーとなる息子フレッド・バスの活躍もあって、ストランドは本を愛する人たちのメッカへと成長していきます。
1957年に現在地のブロードウェイに移転。創業から90年以上の歳月を経て、「ブック・ロウ」にかつてあった本屋の中で現存しているのはストランドだけです。
3代目のオーナーであるナンシー・バス・ワイデンのもと、現在も変わらずバス一家が経営しています。
1Fと4Fのメインフロアには、老若男女が訪れる。写真は4F。
入口の外にある「格安コーナー」から、3階の「稀覯本コーナー」まで。4つのフロアに所せましと並ぶ古本や新刊書、稀覯本は250万冊以上にのぼります。
本好きが本の山の中で迷う名所として、ストランドの名は世界に知れ渡りました。
私たちが心がけてきたのは、良い本を読者の手に届けるという自分たちのルーツに忠実であり続けることです。
オンラインにはない出合いの感触を求めて、人々はここに来ます。
お客さんの求めるものに応じて在庫を常に変化させているのも、好奇心をかきたてる工夫の一つ。訪れるたびに新しい発見があるはずです。
また、お客さんに楽しんでいただくため、毎晩のようにイベントを開催。年間にすると400件ほどになります。ときには世界有数の作家が店に立ち寄って、そこでしか聞けないような話をしてくれることもあるのです。
3Fの稀覯本コーナー
こうした経営のあり方は、新型コロナウイルスの拡大によって一変しました。
今の状況は、私たちにとっても、また業界全体にとっても、信じがたいほど厳しいものです。
ニューヨーク州知事の要請で、当店は3月16日から全面的に閉業しています。
書店の存続は、お客さんが実際にお店に来て、その場でしか得られない体験ができるかどうかにかかっています。
ところが、現状ではそのような店舗の運営は不可能です。
そこで私たちは、ウェブサイトを通じて事業を続けようと考えました。
少し前にウェブサイト(www.strandbooks.com)をアップデートして、世界中に本を出荷できるようにしたばかりです。すでに多くの反響が寄せられています。
これからも良い本を心ある人たちのもとに届けられることを嬉しく思います。
好みの配色に合わせて、本を選んでくれるサービスも(Books By Color)。
歴史を振り返ってみると、本屋は幾度も困難に直面してきました。
1927年に設立されたストランドも、世界大恐慌、9・11の同時多発テロ、2012年のハリケーン・サンディ、さらにはアマゾンのようなECサイトが台頭する時代を生き延びてきました。
人々は本屋を必要としています。本屋でしか味わえないひとときを求め続けるでしょう。
時代が変わろうと、また何が起ころうと、いつも書店を応援してくれる人がいると私たちは信じています。
※Strand Book Store
ウェブサイト:https://www.strandbooks.com/
Instagram:https://twitter.com/strandbookstore
Facebook:https://www.facebook.com/strandbookstore
Twitter:https://twitter.com/strandbookstore
5月現在、実店舗はまだ休業中だが、オンラインでイベントを開催している。上記のウェブサイトから申し込み可能。
安心して信頼できるお店へ買取依頼できるサービス「古本一括査定.com」