あなたの本を未来へつなぐ
2020.05.25
古書店インタビュー
神戸・元町駅から徒歩5分。駅前の東西の通りから南に一本入った細い路面沿いに花森書林はある。
2005年から同じ神戸元町で営んでいた旧店舗の老朽化にともない、2019年2月に現在地へ移転。
店内には本に混じって食器や人形などの雑貨も並ぶ。
店主の森本恵さんはパソコンが大の苦手。SNSを使った情報発信もまったくしていない。
花森書林のウェブサイトも、お店のお客さんが代わりにつくって、運営してくれているそうだ。
子育て真っ最中の母親でもある森本さん。
ネットで積極的に宣伝していないこのお店がいつもにぎわっているのはなぜなのか。その秘密に迫る。
── 小さい頃から本はよく読まれていたのですか?
森本 人並みに本は好きだったと思います。ただ、私が生まれ育ったのは兵庫県の中でも山に囲まれた田舎町で、古本屋どころか新刊書店も周りにはありませんでした。
意識して本を求めるようになったのは高校生のときからです。すごく素敵な国語の先生に出会ったのがきっかけでした。おすすめの作家さんを教えてもらうたびに町の小さな本屋まで探しに行って、ちょっと立ち読みしていいなと思ったら自分で買ったり、学校の図書館で見つけて借りたりするようになりました。そうやっていろいろなところで読んだ本が一つまた一つと、数珠つなぎのようにつながっていくのがとても楽しかったんです。
花森書林の入口
── 古本屋に興味を持つようになったのはいつ頃ですか?
森本 進学で神戸に出てきてからです。今まで目にしたことのない本がたくさん並ぶ古本屋に感動して、そこから古本屋巡りをするようになりました。
就職活動をしているときも、会社訪問や面接の帰りにリクルートスーツのままよく立ち寄る古本屋がありました。見るに見かねたのか、ある日そこの店主さんが声をかけてくださったんです。「まだ決まらへんのか。自分、その服ずっと着てるやん」って(笑)。
最終的に就職先は見つかったのですが、職場が休みの日にその古本屋で店番をやらせてもらうことになりました。ただ、自分でお店を開くつもりはまったくなかったです。
── しばらくは就職した会社で働こうと思われていたのですか?
森本 はい。でも、一ヶ月で最初の勤め先を辞めることになります。その後も、新刊書店でアルバイトをしたり、漫画専門店に再就職したりしたのですが、いろんなジャンルの本と気さくな同僚に囲まれて楽しいという気持ちはあったのですが、業務となるとうまく適応できていない自分がいました。
職を転々とする間も、古本屋での店番は続けていました。私にとっては、何とも言えないあの世界が一番心地よかったんです。
お世話になっていた店主さんに、自分のお店を持ちたいという気持ちを伝えたのが2005年。「やってみたら」というお返事に背中を押してもらって、一年と経たないうちに開業しました。
── お店を開くにあたって、コンセプトはあったんですか?
森本 誰もが気軽に、気楽に入れるような本屋を目指しました。キャッチフレーズは「ザックバランな古本屋」。老若男女様々な方に楽しんでいただけたらという思いを、この“ザックバラン”に詰め込んでみました。
実際、お客さんも年齢や性別の枠を越えて、いろんな方がいらっしゃいます。今の場所に移転する前の旧店舗はビルの2階だったのですが、エレベーターがあるからと、車いすやベビーカーで来られる方も多かったです。
移転した今もご近所さんはもちろんですが、繁華街からも近いということもあって、観光でいらした方が寄ってくださるのもありがたいです。
── 「ザックバランな古本屋」にするために、森本さんが心がけてきたことはありますか?
森本 本を仕入れるにあたって、お客さんから店舗へ持ち込んでいただく本の買取に力を入れています。新旧幅広いジャンルを取り扱うことで、何かしら来られる方の心に響くものがあればという思いからです。基本的に冊数が少ないからといってお断りすることはありません。たとえ一冊だとしても、その一冊の本を持ち込まれた理由があるはずで、時にその理由を伺うこともあります。お客さんご自身が背景にある思いを語ってくださったときには、次の買い手にお伝えすることもあります。
また、一冊の買取から始まったお付き合いが、その後のご縁につながることも少なくありません。本のジャンルも、取り扱いできる限りすべてお引き受けしています。棚はお客さんがつくってくださると考えていて、自分もそこから多くを学んでいます。
── 本の仕入れを確保するために、その他工夫されていることはありますか?
森本 開業してから5年目くらいに古書組合に加入しました。最初は、新しい人間関係や組合の業務が心配で、「入らんで済むんやったら入らんでもいいかな」と思っていたんです。
でも、組合にはとても親切な方がいて、即売会に誘ってくださるなど、恩義を感じることが度々ありました。出張買取などで大量に本が入ったときには、古書組合の市場を活用できることもだんだんとわかってきました。これなら、社会でうまくやっていくのが苦手な私でも続けていけるかなと思い、入ることにしました。
実際に参加してみると、先輩方のいろいろな営業スタイルも学べて、すごくいい刺激になっています。
店内の様子。本以外に雑貨も並ぶ。
── 開業から今に至るまで、ずっと神戸でお店をやってこられたのには何か理由があるのですか?
森本 私、神戸が大好きなんです。一般に「観光都市」のイメージが強いと思うのですが、住んでみると意外と濃い人付き合いが残っていることに驚かされます。海と山に挟まれて、人が行き来する地域もそんなに広いわけじゃないんですよね。町中を歩けば誰か知り合いがいて、「今日もまたここで出会えたね」みたいな。
生活スタイルの近い人たちが集まっている町なので、お客さんや店員が自然とお互いに顔見知りになっていくんです。近所の喫茶店でお茶を飲んでいると、そこの店主さんから「今度うちでやるイベント、参加しませんか?」と声をかけていただくこともあります。
── 花森書林でもイベントを頻繁に開催されているようですが、これはどのようにして始まったのですか?
森本 開業してすぐに、写真家のお客さんが提案してくださったんです。「周囲に表現する人がたくさんいるから、店内に展示スペースをつくるのはどうだろう?」って。そのままその方の車に乗せてもらってホームセンターへ向かい、ベニア板を買ってきて即席の展示スペースをつくりました。
いったん展示イベントをスタートすると、お客さんの中から「自分もやりたい」という人が出てきて、次々とスケジュールが決まっていきました。
本の買取にも通じるのですが、基本的に持ち込んでいただいた企画をお断りすることはありません。本と同じで、自分自身の好みや興味の対象が広がることも楽しいですし、また来られた方と意見を交わす喜びもあります。
── 母親として子育てをしながら古本屋を経営するうえで、苦労されていることはありますか?
森本 やはり不測のことも多く、先の予定が立てにくいので、大きな即売会など、用意や搬入出も含め長期の準備が必要なイベントへの参加については、どうしても今は慎重になります。また、コロナウイルス感染拡大防止のため、保育園が登園自粛となった際にはいつも通り仕事をすることは難しく、たくさんの工夫も必要です。
それでも家族の存在が自分の大きな支えであり、またお客さんを含めて周りの人たちの優しさに何度も救われました。これまでやってこられたのもそっと見守り、声を掛けてくださった方々のおかげですね。
※営業日と営業時間については、花森書林のウェブサイトをご覧ください。
なお、臨時休業中の店内で開催中の永田收さんの写真展「誰もいない展覧会 ~猫の眼~」も、同ウェブサイトで公開されています。ぜひご覧ください。
一括査定内サイト:https://books-match.com/shoplist/detail?id=59
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