古書店インタビュー

あなたの本を未来へつなぐ

2020.05.14

古書店インタビュー

番外編 第8回「東京書房 ~古本屋を支える人々~」

東京書房で三代目店主を務める和田達弘さん。以前の「古書店インタビュー」では、紆余曲折の半生について語っていただいた。

今回、「番外編」として紹介するのは、同店で働くスタッフだ。これまでの道のりも、これから目指すところも異なる3人は、なぜこの職場を選んだのか。

「いろんなことがあったけど、僕がやって来た東京書房の中で、今が一番いいメンバーなんじゃないかな」と嬉しげな和田さん。古本屋を縁の下で支える人たちの活躍に注目する。

 

今はがむしゃらに働くだけ

松方さんは、和田さんが通っていた高校の同級生。とはいえ、クラスが一緒だったというだけで、特によく遊ぶような仲ではなかったそうだ。当然、卒業すると顔を合わせる機会もなくなった。

二人を再び結びつけたのは、10年ほど前に行われた同窓会。すでに東京書房の店主になっていた和田さんから川崎フロンターレの試合観戦に誘われたのをきっかけに、松方さんもサポーター仲間に加わった。

状況が大きく変わったのは2016年。新しいビル店舗への建て替えが終わって、ようやく落ち着いたある日、いつもの応援に和田さんが姿を現さなかった。「店舗がエレベーターなしの4階になっちゃったんだよ」と嘆いていたのはついこの間のこと。心配になった松方さんが何度も電話をするもつながらない。数日後、奥さんと連絡が取れて、和田さんがうつ病で入院していることがわかった。

幼い頃から浮世絵や陶器などの美術品に強い関心があった松方さん。大切な友人である和田さんの力になりたいという強い思いから、ある決断をする。

2017年の春、退院したばかりの和田さんのもとを訪れた松方さんは、「東京書房で働きたい」と告げた。数ヶ月の間に従業員がひとり、またひとりと離れていくのを見て閉業するつもりだった店主は、それを笑顔で受け入れた。
著名な美術コレクターの血を引く松方さんにとって、古書の業界に入るのは自然な流れだったのかもしれない。

松方さんが東京書房のバンの前で。

 

「最初は前職との二足のわらじでした。仕事が終わってから店舗へ行って、毎日夜中の1時過ぎまで和田に古本のビジネスについて質問攻めにする。同時に、ユニークなビジネスビジョンを持っている和田にとても惹かれました。東京書房で古本業に打ち込みたいと決めるのに時間はかかりませんでした」(松方さん)

どうやって本を売るべきか、考えれば考えるほど疑問は湧いてくる。「経験のある和田ならきっといいヒントをくれる」と、松方さんの質問攻めは今も続いている。

また、古書組合の市場の運営にも継続して参加している。市場で大量の本が取引されるのを見て様々なことを勉強できるだけでなく、本来はライバルであるはずの他店の先輩たちから声をかけてもらい、本や古本業についてより深く知る場にもなっている。

「捨てられるはずだったものを買取現場で譲り受けて、古本として新しい命を吹き込む。その本を次に必要としている方につなげられたときの喜びはひとしおです。業界で売れないと言われている本をどう売るか考えたり、がむしゃらに出張買取に出て本を集めたりすることでいつも頭がいっぱい。古本業で食べていけると自信がつく頃には、この仕事に対する考え方や本に関する知識も自然と身についていると思っています」(同)

 

経営の視点に立って

「私にとって本は睡眠薬」とほほえみながら語る松岡さん。代表取締役専務として日々の業務を支える。どういうめぐり合わせで、本いっぱいの東京書房へたどり着いたのだろうか。和田さんを「社長」と呼ぶその声から醸し出される親しみの理由はどこにあるのか。

今をさかのぼること約30年、高校生の和田さんはロックバンドでドラムを叩いていた。そこでボーカルを担当していたのが松岡さんだ。
卒業後、二人は本格的に音楽を学ぶために専門学校へ進学する。だがプロの道は険しかった。やがてひとりは一般企業に就職、もうひとりは眼鏡屋を経て古書店の三代目を継いだ。

松岡さんが正式に東京書房で働くようになったのは2019年10月のこと。きっかけは“スカウト”だった。うつ病でしばらく休職していたときに、同じ病を経験した和田さんに「リハビリがてら、うちに来ない?」と声をかけられたのだ。

「ずっとサラリーマンをやってきたので、今度は自分でのんびり商売でもやろうかと漠然と考えていたんです。いつかお店を開くために学びつつ、社長の助けになれたらと思って入社を決めました」(松岡さん)

実は松岡さんが古本屋に関わるようになったのは最近ではない。自由が丘に店舗があるときから東京書房によく出入りしていた。たまに作業を手伝うようなこともあったそうだ。
だからといって、古書の世界にぞっこん惚れ込んでいたわけでもなかった。

「正直なところ、本に興味があるかというと、そんなにないんです。どちらかと言うと、本をどうさばいていくのか、その経営側の動きに注目しています。社長がよく言う“職人になれ”という言葉も、買取の現場に立つ他のスタッフとは違った受け止め方をしているのかもしれません」(同)

宮前警察署から送られた感謝状を持つ松岡さん。

東京書房が力を入れる地域との連帯や社会貢献の活動は、こうした多様な視点の共有によって成り立っている。一見、まったくの畑違いに思える松岡さんもまた、このチームには欠かせないひとりなのだ。

 

九州を飛び出して古本屋に

鹿児島県生まれのTさんは現在29歳。都内から1時間以上かけて川崎市の店舗へ通いながら、毎週月曜日には古書組合の市場で運営を手伝う。加えて休日には書店めぐりをするというのだから、筋金入りの本好きだ。

中でもお気に入りは、明治から昭和にかけて活躍した泉鏡花。小村雪岱の装丁にも惚れ込んでいるとなると、足の出向く場所は自ずと限られてくる。

「古本屋へ行くと、大型の新刊書店では売っていないものや、絶版で読みたくても読めなくなってしまった本が並んでいたりします。普段の生活ではなかなかお目にかかれない面白い本を届ける仕事に、いつしか惹かれるようになっていました」(Tさん)

地元で小学校の先生をしていたTさんが九州を出て上京してきたのは、2017年の初夏だった。

「古本屋になりたいという気持ちが抑えきれなくなって、鹿児島を飛び出して来たんです。東京にたどり着いたはいいものの、住む家も、職場も決まっていませんでした」(同)

上野のカプセルホテルに泊まりながら仕事を探し、たまたま見つけたのが東京書房の求人だった。
今では出張買取もひとりでこなすTさん。それだけたくさんの本を見て経験を積んできたと、店主の和田さんは太鼓判を押す。
言葉数の少ないTさんの一言一言からも自信が感じられた。

「東京書房に入ったときと今とでは、本の見方がガラッと変わりました。ただ好きで読む本と、価値のある本ではやはり違ったりするので。知識についても、かなり幅が広がっています。いろいろ勉強させていただいて、ギュッと凝縮された2年半でした」(同)

Tさんの周りには、同じように古本屋を目指す若者が増えてきているという。最初は反対していた両親も、今では応援してくれるようになった。

「今日はこれから板橋区まで買取に行ってきます。リピーターの方から、どうしても来てほしいとご連絡をいただいたので。こういう縁を大切にしていきたいと思っています」(同)

未来の古本屋店主は、お客さんの元へと急いだ。

 

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