あなたの本を未来へつなぐ
2020.09.18
古書店インタビュー
福岡のネット古書店、古書よかばい堂。
店主の濱貴史さんは、サラリーマン時代から営業先の地方都市でも古本屋を覗いていたという。
ただし、読むこと以上に買うことが好きで、とうとう40代後半になって古書店を始めてしまった。
故郷の言葉「よかばい」という名に込めたのは、ものごとを肯定し、ポジティブに生きたいという濱さんの思い。
じつは最近、西鉄天神大牟田線の沿線に事務所を移転。コロナ禍で先が見通せないながらも、その一部を実店舗化する試みを始めたばかりらしい。
いずれは店主との会話を目当てに客が集まるようになればと願っているそうだ。
── 脱サラして古書店を始められたのですね?
濱 ゼネコンで21年働いていました。20年目くらいで、ちょっとサラリーマンにも飽きてきてたんです。ちょうどその頃、Amazonのマーケットプレイスが出来て、素人でもモノを売り始めていたんですね。
子どもが小さい時にブックオフで1冊100円とかの絵本を買っていたんですよ。何百冊にもなっていたけど、子どもが大きくなっていたし、試しにAmazonで売ってみたんです。中には絶版本とか珍しいものもあったけど、ブックオフで買ったものをブックオフに売っても1冊何円とか何十円にしかならない。ちゃんとした値段で売れないかなあと思っていたところ、マーケットプレイスでは売れたんですね。
サラリーマンを辞めたくなってた時に、タイミングよくそういう体験をしたもので、じゃあやってみようかと。思い切って会社を辞めたのが46、7歳だったかな。それが2005年で、もう15年、古本屋をやっています。
── もともと本が好きだったんですか?
濱 読むよりも買う方が好きというのはあったんでしょうね。ゼネコンで埼玉の営業所にいた当時、群馬や栃木も管轄していたんです。車で回るんですが、栃木県の足利市とか佐野市に行っても古本屋があるわけです。
寄って覗いたりしていると、「この本、東京で売ったら高いじゃん」みたいなものがあったりする。ある時、非常にレアなフランス文学と、SFマニアによく知られている「サンリオ文庫」の本を見つけて。この2冊を買って東京の古書店に持ち込んだら5000円で買ってもらったんですよ。
── そういう〝勘〟が冴えていたんですね。
濱 自分が読むことよりも、メタ情報というと大袈裟ですが、本の属性、書誌情報のようなものに興味があったんでしょうね。どちらかというと、古本屋向きの気質があったのかなと思います。
本を読むことを商売にするのは学者さんで、こっちは耽読して本に溺れてはいけない。冗談半分で「商品には手を出さない」なんて言ったりしてますけど(笑)。もちろん、これは僕自身の資質の話なので一般化はできませんよ。読書好きで、それが強みになっている古本屋さんもいらっしゃるわけで、それはそれで素晴らしいことです。
── 最初からネット販売をメインに考えられていたのですか?
濱 リスクを最低限にして始めるには、それしかなかったんです。当時は携帯電話を片手に背取りをする人が急増していて、これは誰でも参入できますから僕もそこからスタートしていました。
ただ、続かないのは見えていましたから、ホームページを作って一般の方から買い取れるようにした。それだけでは他と変わらないので、新聞にも広告を出して。新聞広告というのは、やっぱり高齢の方は安心されるんでしょうね。電話が入ることが増えてきて。それで古書組合に入ったりして、自分なりの商売の形を整えてきた感じです。
── 仕入れのルート開拓はどのように工夫されていますか?
濱 いろいろと試行錯誤をしています。ホームページにはSEO対策もして。新聞広告は今も出しています。福岡の場合、シェアの大きい地元紙より、読売、朝日、毎日という全国紙の地方版のほうが広告費は安いんです。しかも、蔵書をたくさん持っているような人は、こうした全国紙を購読している率が高い。
これまで、ラジオのスポットや、西鉄の電車内に広告も出しました。数十万かけて車にラッピングもしましたが、これはほとんど効果なかった(笑)。ずいぶんお金をかけた割に効果がなかったというのは、いっぱいあります。広告って失敗しないと上手くならないと思っているんですよ。
新聞広告も福岡だからできているというのはあるでしょうね。費用対効果を考えると、東京や大阪ではなかなか難しいだろうと思います。
── 「LINE買取」もされているようですが、これはいつ頃から始められたのですか?
濱 2~3年前ですね。「どんな本がありますか?」って尋ねた際に、自分の蔵書ならまだしも、親などの他人が集めた本について一般の方で的確に説明できる人は、まずいません。本の冊数も目分量で1桁くらい間違えてくることはよくあります。
三大紙だと九州全域に広告が出たりしますので、宮崎や鹿児島からも電話がかかってくるんです。片道300キロくらいありますから、行って「あ、失敗だった」というわけにはいかない。なので、「本の内容が分かるように写真をパッと撮って送っていただけませんか」というのは、以前からやっていたんです。
── 古書組合に入ったことでどんなメリットを感じられましたか?
濱 「日本の古本屋」で売れるというのは大きいですね。「こんな本、誰が買うの?」というような本は、やはり「日本の古本屋」でよく売れるんですよ。学者とか研究者は「日本の古本屋」で探してくれますからね。
あとは古本屋どうしが交換をする「市会」に参加できるようになったのも大きいです。個人図書館とか何万冊という単位で売りたいというお客様がいても、置ける倉庫を持っている古本屋は福岡のどこにもないですから。大型トラックで買取りに行って、市会で売ろうと思えば全部売れるというのはありがたいことですよね。
── 古書よかばい堂さんならではの特徴って何だと思われますか?
濱 あえて言えば「年寄り」がやっていることですよね。買取を依頼される方の9割は遺品整理なんです。自分の家族が大事にしていたものだから、できれば捨てたりしないで次につなげたいと思っていらっしゃる。高く売りたくて仕方ないというような方は、まずいません。
だからこそ、本を遺してくださった方について、奥様あるいは息子さんや娘さんから話を聞くことが重要だなと思うんです。蔵書を拝見しながら「お父さんは、よく勉強されてたんですね」「父は教員をしていました」というような会話になっていく。
値段が付かなくて買えないような本についても、その理由を丁寧にご説明して納得していただくコミュニケーションが大事になってきます。
── 同じ値段になるとしても、お客様の目線に立てるかどうかですね。
濱 僕は、この仕事はお坊さんに似たところがあると思っているんです。それなりの年配者が行って、ご家族と言葉を交わして、旅立っていく本が〝成仏〟できるようにする。これは経済学的な話じゃなくて人類学的な話ですよね。本の査定の基準が「キレイ」か「汚い」かの経済合理性だけで杓子定規にやられると、やっぱり売る側は傷つきます。
── サイトにあった「終活応援しています」の意味するところが理解できました。
濱 だから、実店舗を構えて、いろんな人が来て、お話ができるようになればというのは、ひとつの理想ですよね。スナックでも喫茶店でも、ママやマスターとコミュニケーションをするために行ってるようなところってあるでしょう。
去年、事務所を移転して、その一部に本を置いて店舗化しているんです。コロナ騒動が起きたので、まだ積極的に告知はしていないんですが。先日もインスタを見た若いお客さんが3人くらい東京からいらして、いろんなものを買っていかれたようです。
── 実店舗の場合、後継者について思案される経営者も多いようですね。
濱 うちも後継者は欲しいですよ。探しています。自分の子どもはいますけど、古本屋をやりたいかどうかは分かりませんし。だから、本当に古本屋をやりたいから教えてくれという方がいれば、全部教えるつもりで受け入れたいなと思っています。
古書よかばい堂
一括査定内ページ:https://books-match.com/shoplist/detail?id=48
HP:https://yokabaido.com/
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