古書店インタビュー

あなたの本を未来へつなぐ

2024.04.19

古書店インタビュー

第16回「古書よかばい堂 ~福岡に古書店街を~」

第10回の「古書店インタビュー」に続いて2回目の登場となる古書よかばい堂の店主・濱貴史さん(65)。

 

2005年に古本のネット販売を始めてから、間もなく20年になる。

「もう年ですから、そろそろゆっくりしたい」と語りながらも、「まだまだね、やりたいことがあるんですよ」と笑顔をもらす。

 

つい最近も、長年の計画を実現したばかりだ。

「古書よかばい堂」の店主・濱貴史さん

 

店内の奥には「昭和のカオス」

 

―― 前回、濱さんにお話を伺ったのは2020年秋のことでした。あれから3年半ほど経ちましたが、よかばい堂としてどのような変化がありましたか?

 

濱 何といっても、2024年1月に実店舗として「よかばい堂古本アウトレット店」を福岡市南区寺塚にオープンしたことですね。

ネット古書店を開業して以来、いつか実店舗を持ちたいという思いがずっとあったのですが、それがようやく叶いました。20坪ほどの店内に約1万冊の古本を置いていて、CD・DVDや雑貨なども扱っています。

 

―― 古本のネット販売だけでなく、実店舗をやろうと思ったのはなぜですか?

 

濱 古本屋の仕事って、膨大な砂のなかに金の粒を探す「砂金採り」に似たところがあるんです。買取でたくさんの本が集まってくるのですが、そのうちで〝金〟に値するものはごくわずか。他の大半はネットに出しても売れないので、以前は古書組合の加入者同士で売買できる市会に出していました。

 

一方で、一般の人向けに開かれる古本市などの催事に参加した際に、ネットでなかなか売れない本を300円くらいで出品すると、買ってくれる人がいるんですよね。結局、売り方次第なんだなと思って。

だったらいっそ、自分の実店舗を持って、ネットで売りにくい本をそこで販売したらいいんじゃないかと考えました。

2024年1月にオープンした「よかばい堂古本アウトレット店」

 

―― アウトレット店のほうでは、比較的安い本を販売されているのですね。

 

濱 言ってみれば、どこの古本屋にでも置いてそうな本が多いと思います。でも、それだけじゃないんです。

店内の奥には、どちらかというと珍しい本を揃えていて、ちょっとしたコーナーも用意しています。たとえば「昭和のカオス」と題した棚には、現代からするとちょっと毒々しいというか不穏というか、他のお店ではあまり見かけないタイトルの本を並べました。

お手頃な本を探している人からコアな古本好きまで、飽きさせないように工夫しています。

 

―― アウトレット店にいらしたお客さんのなかで、印象に残っている人はいますか?

 

濱 毎日来てくださる方や、私よりもこの業界に詳しい古本マニアの方もいらっしゃいます。

あと、アイルランド人やフランス人、アメリカ人など、外国のお客さんも意外と多いんです。この間、ある人が1時間くらい店内を見て回って、浮世絵関係の本とか、ハローキティのお弁当箱とか、日本に関わりのあるものを買っていかれました。「どちらの国から来たんですか?」と尋ねたら、「ロシアです」って。どうも話を聞くと、そのお客さんも何か商売をやっているらしく、仕入れのために来店されたようでした。

 

古本屋が3軒集まれば・・・

 

―― 濱さんは東京に本社を持つ建設会社で約20年にわたって勤務されたあと、2005年に生まれ故郷の福岡市でネット古書店を開業されました。今年の1月にオープンされたアウトレット店も同じく福岡市内ですね。

 

濱 古本のネット販売を始めてから何度か引越はしているものの、ずっと福岡市あたりを拠点にしてきたので、アウトレット店をこの場所でやるのも自然な流れでした。前回のインタビューでも触れましたが、東京などに比べて、地方は新聞広告の掲載料金が安いというメリットもありますしね。

 

「古書よかばい堂」の新聞広告。キャッチコピーなども店主の濱さんが考案

 

 

ただ、そういった経営面での事情とは別に、福岡市で古本屋の実店舗をやる意義があるんじゃないかと思っています。

古本屋の実店舗が軒を連ねた街を、古書店街と言ったりしますよね。東京には神保町をはじめ、古書店街がいくつも残っています。

 

私は一つの目安として、「古本屋が3軒集まれば古書店街の始まり」と考えています。ところが西日本に目を移すと、大阪や神戸などの大きな都市を除いて、3軒の古本屋が集まったエリアは極めて少ないんです。福岡にもほとんどありません。

古本好きの人たちがそんな状況を寂しく感じているのは、私にも伝わってきました。何かにつけて「お店があったらいいのに」と嘆く声も耳にしていたので、どうせ実店舗をやるなら、本のある空間を切望する人たちがいる福岡にしようと決めていたのです。

 

―― アウトレット店を開くにあたって、福岡市のなかでも南区寺塚を選んだ理由は何かあったのですか?

 

濱 実はすぐ近くに大手の新古書店があります。こんなことを言うと、競合して大変だと思われるかもしれませんが、私はむしろ利点だと捉えています。

たとえば、大型スーパーの近くに、小さな個人経営の八百屋さんがあったりしますよね。八百屋からしてみれば、単純に規模や集客力で争っても勝ち目はない。でも大型スーパーに置いてあるのとはちょっと違う種類の野菜を揃えておけば、向こうで買い物を済ませたお客さんがついでに立ち寄ってくれたりします。

いわゆる〝コバンザメ商法〟というものですが、新古書店の近くにオープンした私のアウトレット店も、それに近いのかなと思います。

 

また現在、寺塚の界隈には新古書店とアウトレット店、合わせて2軒の古本屋が立っている状態ですので、あと1軒できたら、念願の「古書店街」が誕生すると冗談半分で言っています。(笑)

 

お寺で古本市

 

―― 濱さんは福岡市古書組合の理事もされていますが、組合として何か注目すべき出来事はありましたか?

 

濱 いまから8年くらい前に、こんなことがありました。

東京や大阪と違って、福岡には古書組合の活動拠点になるような古書会館がありません。そのため、いつも市会をやるときには、利用料の安い公的な施設などを借りていました。

ところが、会場がコロコロ変わるのはどうしても使い勝手が悪くて、どこかに継続して借りられる場所はないかという話になった。私がサラリーマンだった頃に営業で訪れたお坊さんがいたので、思い切って相談してみると、福岡市と隣接する春日市の浄運寺というお寺を紹介してくださいました。そこの住職さんがすごく寛大な方で、組合員のための市会だけでなく、一般の人が参加できる古本市もやろうとおっしゃってくださったんです。毎秋に「春日・浄運寺古本まつり」を開催するようになって、今年で7回目になります。

 

「春日・浄運寺古本まつり」のX(旧Twitter)公式アカウント

 

―― よかばい堂として、これから取り組みたいと考えていることはありますか?

 

濱 現在、アウトレット店は有人で販売の対応に当たっているのですが、人件費を抑えるためにも、いずれセルフレジを導入して無人店舗にしようと準備を進めています。

コロナ禍をきっかけに、餃子や肉専門の無人店舗が増えましたよね。東京の世田谷区には夜間に限り無人で営業している新刊書店もあって、そういった場所を実際に訪れるなかで、自分でもやってみたいと思ったんです。

 

―― 実店舗を無人化したあと、お客さんとはどういう形で関わっていこうとお考えですか?

 

濱 アウトレット店を無人化するといっても、完全に対面の接客をなくしてしまうわけではありません。むしろ、セルフレジを導入することで私の作業負担も減るので、いま以上に店の出入りがしやすくなると想定しています。

個人的にはお客さんとコミュニケーションを取るのが好きなので、実店舗を無人化してからもできるだけお店に来て、お客さんとしゃべって、それで話が盛り上がったら一緒に飲みに行く、みたいな生活が理想です。

 

古書よかばい堂 ウェブサイト:https://yokabaido.com/

よかばい堂古本アウトレット店 インスタグラム:https://www.instagram.com/yokabaido_outlet_terazuka/

一括査定内サイト:https://books-match.com/shoplist/detail?id=48

 

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