コラム

2020.07.24

コラム

シリーズ「世界の古本屋」 第3回「Libreria Acqua Alta(イタリア)」

イタリア北部の水都ヴェネツィア。運河の間を縫うように張り巡らされた細い路地の突き当りにたたずむのが、「Libreria Acqua Alta(アクア・アルタ書店)」だ。

 

Google MAPで見た「Libreria Acqua Alta」(赤いピン)

 

もともとイタリア語で「高潮」を意味する「Acqua Alta」とは、秋から春にかけてヴェネツィア周辺で発生する水位の大幅な上昇のこと。

潮の満ち引きに、特殊な風や気圧配置などの要因が加わって引き起こされる。

 

ときに住民を悩ませる地域特有の現象を店名に入れた理由は何なのか。

創業者の息子であるLino Frizzoさんに話を聞いた。

 

お店の近くを流れる運河

 

本棚の代わりに…

ヴェネツィアを州都とするヴェネト州。その西部に位置する町ヴィチェンツァに生まれた父は、若い頃から旅好きでした。

世界各地を飛び回っていた40年ほど前、ある本屋との出会いをきっかけに自らも書店を営むようになります。

 

店の入口

 

のちに2店舗目を始めるのですが、いずれもとても小さなお店でした。

やがて、長年にわたって収集してきた本を収めるのに十分なスペースが必要になり、2002年に移転したのが現在の場所です。

 

店内の様子。本が所せましと並ぶ

 

在庫のほとんどが古本か絶版本。美術やヴェネツィアに関する新刊本も2割ほど置いています。

 

市内の中でも海抜がひときわ低いところにある当店は、秋の満潮時には浸水しやすくなります。そこで、本を水から守るために、ゴンドラ(ヴェネツィアの運河で使われている小舟)やバスタブを本棚の代わりとして使うことにしました。

 

店の奥にある扉を開けると、すぐそこに運河が流れている。

 

インターネットが普及するにしたがって百科事典の類が売れ残るようになりました。そこで、店の奥にある庭に大型の本を積んで階段をつくり、壁の上から運河のある景色を見下ろせるようにしたのです。

 

私たちが本屋を続けるうえで心がけてきたのは、市場に出回らなくなった本をできるだけ多く見つけて、それを可能な限りお手頃な価格で提供すること。

いわゆる「絶版本」を専門とする一方、100年以上前に出版されたようなアンティークの本は基本的には扱っていません。

 

浸水に備えて、ゴンドラに商品の本が積まれている

 

自分の店の〝クセ〟を知る

当店は、ウェブ上では受け渡しできない独特の雰囲気や体験を大切にしています。

私たちがオンライン販売を行わない理由はそこにあります。

 

新型コロナウイルスの拡大にともない、イタリアでは今年の3月12日から商業活動の制限措置が取られました。

生活必需品の販売を除き、すべての小売店の営業休止が命じられたのです。

私たちにできるのは、じっと耐えて待つことだけでした。

バスタブも用いて浸水対策

 

規制が緩和されるにしたがって、4月の半ばから徐々に店舗の運営を再開。嬉しいことに、1ヶ月と経たないうちに再び多くの方が訪れてくださるようになりました。

その分、人の流れには気を配っています。店内でも、またお店の外に列をつくって並んでいただく際にも、1メートル以上は離れてもらうよう、お客さんにお願いしています。

ただ、コロナの問題はまだまだ解決してはいません。

 

庭にある本の階段。壁の向こう側には運河が流れている。フォトスポットとしても人気

 

どの本屋さんも、自分の店の〝クセ〟を知っているはずです。どう商売するか――。その店主さんにしかないやり方がきっとあります。

店に入ってきたお客さんと心でつながり、出るときにかけがえのない思い出をお土産に持って帰ってもらう。私たちが目指してきたのはそんな場所です。

 

 

※写真はすべて同店の下記SNSアカウントから転用

【Libreria Acqua Alta】

Facebook:https://www.facebook.com/libreriaacquaalta

Instagram:https://www.instagram.com/libreriaacquaalta

 

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