コラム

2020.04.02

コラム

樽本樹廣氏 インタビュー 古本屋革命 第4回「愛すべきこの町で」

2006年に百年が吉祥寺駅の北口に誕生してから13年。追い風を背中に受けて経営が順調なときも、向かい風に吹かれて生活が立ち行かなくなりそうなときも、いつもこの町とともにあった。

 

店主の樽本樹廣さんはなぜ吉祥寺に百年を開いたのか。

この場所で何を見てきたのか。

 

百年がアップデートし続ける古本屋の現在をお届けする本連載。最終回は町との親和性について。

 

 

自分が好きになれる町で

── 百年を開業するにあたって、吉祥寺を選ばれたのはなぜですか?

 

樽本 三鷹市にしばらく住んでいたこともあり、一時期は毎日のように吉祥寺に来ていました。どういう店が並んでいて、どういう人が歩いているのかを肌で感じていたというのは、要因としてあったと思います。

だからといって、初めからこの町を狙っていたわけではありません。細かい条件はいろいろ考えていたけど、中でも僕にとって重要だったのは二つ。一つは、店売りだけでやっていきたかったので、人通りが多いこと。もう一つは、自分が好きになれる町であることです。

 

インタビューに応じる店主の樽本さん。

 

── 例えば、どういった地域に足を運ばれたのですか?

 

樽本 自由が丘や高円寺、その他あちこちを探し回ったんだけど、なかなか思うようなところが見つからなくて。

もちろん、吉祥寺にも物件を見に行っていました。ただ、一階はどうしても家賃が高い。どうしようかなと決めかねていたある日、町中で何の気なしに立ち止まって見上げたら、この場所が目に入ったんです。ちょうど「テナント募集」の案内が出ていたので、すぐに電話するとまだ空いているとのことでした。

古本屋をやるうえで、二階はあまり好まれません。本を運ぶのに不便な場合があるのと、客足にも影響するからです。でも、たまたまなじみのエリアだったので、ここならやれるかもしれないと思って決めました。

 

── 「吉祥寺らしさ」はどんなところにあると思われますか?

 

樽本 この町をつくってきたのは、個人でやっているような小さなお店です。大きな資本の会社にまだ塗りつぶされていない面白さがある。新旧の入れ替わりはあれど、昔から古本屋も多い。

あとは“ゆるさ”じゃないかな。東京の都心部から程よく離れていて、人を競争に駆り立てるようなギスギスした感じがない。

風土を見ても、吉祥寺のあたりは平べったいんです。ランドマークとなるような高い建物がないのもあってか、フラットな付き合いがしやすい。近すぎもせず、遠すぎもせず、お互いに適度な距離でいられる町です。

 

 

異業種をつなげた「一晩スナック」

── これからもこの町でお店をやっていこうと思われますか?

 

樽本 今の自分にとっては、吉祥寺以外の選択肢はないと思っています。2017年に、百年から徒歩1分のところに「一日」という姉妹店を開いたのも、展示の開催などを通してよりローカルな本屋をやってみたかったからです。

まあ、ここにあんまり長くいると町の外に出なくなるので、たまにうんざりすることもある。でも、渋谷とか新宿へ行った帰りなんかは、「ああ、やっぱり吉祥寺はいいな」と思うね。なんでもそろっているっていうわけじゃないんだけど、「まあ、こんなもんでいっか」って。

 

── 地元とのつながりを深めるうえで、何か工夫されていることはありますか?

 

樽本 開業したすぐあとに、吉祥寺の商店さんたちと協力して、「一晩スナック」という企画を始めました。何をやるかと言うと、決まった時間にうちのお店に集まって、お酒を出してただ飲むだけ。一般のお客さんを含め、誰でも参加できる。まさに「スナック」です。

2ヶ月に1回くらいのペースで、30回はやったんじゃないかな。アンティークショップ屋さんや、個人でジャムを販売しているお店、古着屋や雑貨店さんなどが一緒になって取り組むことで、異業種の間につながりが生まれた。

お客さんのほうでも同じような現象が起こっていました。ある店の常連だった人が、別の店に来たりする。「一晩スナック」が起点となり、地域全体が活性化されていった。

点と点をどんどんつなげていくことによって、線ができて、面になる。それが本来の町なんじゃないのかなと思うんです。

百年のことを広く知ってもらえたという意味で、僕らにとっても非常に有意義なイベントでした。

 

姉妹店「一日」の外観。黄色の面格子が目印。

 

── 吉祥寺でお店をやってこられたこの13年間で、町は変わりましたか?

 

樽本 もともとあった小さなお店がどんどんなくなってきています。ついこの間も、10年以上やっていたカフェが閉店してしまって。寂しいですね。

大手の企業ばかりになると、町がつまらなくなり、わざわざ吉祥寺まで足を伸ばす人も減っていく。小売業全体の売上が落ちて、個人で経営している人たちにとっては、ますます商売が難しくなります。悪循環です。

吉祥寺らしさを失わないためにも、小さなお店が元気でいられるようにしたい。そのためにも、お店同士のつながりが大事なんです。

 

 

何のためにお店をやるのか

── これから古本屋を始める人が町を選ぶにあたって、どのような点に気をつけたらいいと思われますか。

 

樽本 まずは、そこでお店を営んでいる自分自身の姿を思い浮かべてみて、10年もしくは20年先の未来が見通せる場所をおすすめします。端的に言えば、ずっと好きでいられる町です。

一年のうちの大半をそこで過ごすことになります。安定した売上を見込めるような立地だったとしても、違和感をいだきながら続けるのはしんどいと思う。

その風景の中で時間が経つことを想像できるかどうか。できないのなら、厳しいけれどもやめておいたほうがいいと僕なら助言します。モチベーションにも直接関わってくることですから。

 

── 単純に人通りが多ければいいというわけではないんですね。

 

樽本 どの地域でやるかによって、商売の規模はある程度決まってしまいます。当然、店をやるからには利益を出さなければなりません。町との相性と集客、どちらをより重視するのかという問題にもなってくるでしょう。

経営のあり方を最終的に決めるのは、事業の目的です。お店をとおして、何をやりたいのか。何らかの形で社会に還元したいのか、それとも自己満足でいいのか。

経済的な理由でやむを得ず二階で始めた百年にたくさんのお客さんが来てくださっているのも、「コミュニケーションする本屋」という明確な柱があったからだと僕は考えています。

 

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