古書店向けお役立ち情報

2021.04.27

古書店向けお役立ち情報

シリーズ「古書店消息」 第2回 適正な買取価格とは?

古書店を運営する方や個人で古書の売買をする方に有益な情報をお届けする「古書店消息」――。第2回目は、買取価格を決める際に役立つ「Keepa – Amazon Price Tracker」について取り上げたいと思います。

そもそも買取価格はどうやって決めてる?

商品となる古書をいくらで買い取るのか――。当然の話ですが、安過ぎてしまうとお客さまの信用をなくしてしまいますし、高過ぎてしまうと利益になりません。古書店にとって買取価格は〝生命線〟と言えるはずです。

 

買取価格を決めるためには、言わずもがな販売価格が決まっていないといけません。では、古書店はどのように販売価格を決めているのでしょうか。筆者がこれまでに見聞きした範囲で言えば、大きく2つのタイプのお店があるように思っています。1つは「売りたい価格で売るお店」。もう1つは「売れる価格で売るお店」です。

 

「売りたい価格で売るお店」というのは、どちらかというと昔ながらの実店舗の古書店に多い気がします。おそらく、古書そのものの価値(市場価値のみではない)に対する思いやこだわりがあって、そうしているのでしょう。一方の「売れる価格で売るお店」は、そこまで古書に対する思いやこだわりが強くなく、シンプルに商売としての古書店を考えているお店が多いような気がします。

 

ここで言う「売れる価格」は大きく2つのタイプに分けられます。1つは「今売れる価格」であり、もう1つは「適正価格」です。今回のテーマである適正な買取価格は、「今売れる価格」ではなく「適正価格」(適正な販売価格)に対応する形で算定されるはずです。では、「今売れる価格」と「適正価格」とで何が違うのかを、詳しく見ていきたいと思います。

 

適正な買取価格を算定するために

 

「Keepa – Amazon Price Tracker」というWebブラウザの拡張機能をご存知でしょうか。これはAmazonで販売されている商品の価格の推移を、過去10年間にわたって時系列のグラフで見られる機能です。

 

例えば、この「Keepa」でレヴィ・ストロースの『野生の思考』(みすず書房/1976年)を検索してみます(4月25日時点)。すると直近1カ月の中古価格の最高値は4,773円、最安値は2,000円ということがわかります。

『野生の思考』直近1カ月の最高値

『野生の思考』直近1カ月の最安値

 

4,773円と2,000円では大きな開きがあるように見えますが、期間を最長の10年間にしてみるとこの本の価格が安定していることがわかります。一時的に大きく変動することはあるものの、ほとんどの期間で2,000円から4,000円あたりを推移しているのです。刊行から40年以上が経ってもこの価格帯で推移しているというのは、需要と供給の均衡が保たれている証左でしょう。

『野生の思考』10年間の推移

 

一方、堀江貴文さんの『多動力』(NewsPicks Book/2017年)を見てみると、刊行当初は新刊とほぼ変わらない1,200円程度で売られていたことがわかります。ところが、時間の経過とともに価格は下がり続け、2019年1月以降は1円から100円のあいだで推移しています。わずか1年半という短い期間で、需要と供給のバランスが崩れてしまったわけです。

『多動力』古書価の推移

 

次に、上記2冊とは異なる価格の推移をしている本を取り上げたいと思います。いわゆる「赤本」と呼ばれる教学社の「大学入試シリーズ」です。これらは刊行から時間の経過とともに価格が下がり続け、受験シーズンが終わると1円になったりするのですが、翌年の受験シーズンが近づくと再び価格が上がってくるのです。

『國學院大學(2019年版大学入試シリーズ)』古書価の推移

もしも現在の販売価格だけを見て買取価格を決めてしまうのであれば、『野生の思考』の2,000円から4,000円という価格の幅や、『多動力』のようにわずか1年半で起きてしまう1,200円から1円という下落、さらには「赤本」のようなシーズンによる下落・騰貴などを知ることはできません。つまり、常に「今売れる価格」から買取価格を算定するしかないのです。先にも触れたとおり、それでは赤字になるかもしれませんし、黒字になったとしても本を売ってくれたお客さんからの信用を失ってしまいます。

 

何も必ずしも「今売れる価格」がいけないわけではありません。例えば、多くの在庫を抱えるスペースがないお店は、あえて「今売れる価格」で買い取って、すぐに売ってしまうというのもひとつの方法ではあります。買取価格の設定の仕方については、それぞれのお店の都合に合わせて決めれば良いと思います。

 

ただし、「今売れる価格」だけで買取価格を決めるのには、思わぬリスクが潜んでいることは知っておいた方が良いでしょう。というのも、Amazonに関しては在庫が少ない商品などは価格の変動幅が大きく思わぬ高値になっていることがあるからです。

その時の最安値が2万円になっていても、次の週には数百円になってる!なんてこともザラにあります。

 

例えば、Amazonでは『MARUZEN物理学大辞典』(丸善/2005年)という本が25,000円程度で売られていますが(4月25日時点)、この本は過去に8,000円とか1,500円とかで売れていた時期があります。恐らく一時的に価格が上がってしまったのではないかと思います。この本の適正価格を考えるのであれば、筆者だったらそれら過去の販売額のうち直近数件のデータから8,000円が妥当な販売価格と判断します。そして、それに見合った買取価格をつけます。

 

また、Amazonには「売れ筋ランキング」があり、登録されている商品は必ずランク付けされています。このランキングは売れやすさの参考になるため、古書店にとっては販売価格と同じくらいに重要な指標になっているのですが、実はこれも違反的な操作ができるのです。

その方法をここに明記することはしませんが、このランキングは商品が売れた瞬間に上がり、その後徐々に下がっていく仕組みになっています。あたりまえと言えばあたりまえですが、売れ続けているものが上位にランクインし続ける仕組みになっているわけです。裏を返せば、どの瞬間にランキングを見るかで商品の売れやすさの印象も変わるので、この仕組みを逆手に取って違反的なことをする人がいるのです。

 

価格が吊り上げられている商品の買取依頼が来た時にランキングが上位にあれば、ほとんどの人は「高く売れる商品が来た」と思って、吊り上げられた価格をもとに買取価格を算定してしまうはずです。そうなると、客単価が決して高くはない古書店にとっては、1冊だけでも大きな赤字となってしまいます。

 

そうした事態に陥らないためにも、手間をかけてでも適正な価格買取を算定した方が良いはずです。その時に「Keepa」は非常に使いやすいツールだと思います。

 

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