古書店インタビュー

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2020.12.13

古書店インタビュー

第13回「古本マージナル ~「古書籍商」×「障害者雇用」~」

古書店のカタチは百人百様。カフェを併設した店舗型の古書店もあれば、ネット販売のみの倉庫型の古書店もある。あるいは、得意のジャンルに絞った商いをする古書店もあれば、売れるものは何でも扱う古書店もある。

 

そんな古書業界に異彩を放つ店がある。その名も「古本マージナル」(東京・武蔵野市)。「古書籍商」と「障害者雇用」を看板に掲げるハイブリッド古書店だ。

 

ネット販売専門の「古本マージナル」では、障害者が健常者とともに働いているだけでなく、創業者の直志浩仁さん(55)が別法人で経営している障害者就労支援施設「カバーヌ」にも作業を委託している。つまり、「古書籍商」によって障害者の「雇用」と「工賃作業」の双方を生み出しているのだ。

 

大学院中退後、しばらくしてからずっと福祉畑で働いているという直志さんは、どうして「古書籍商」と「障害者雇用」を混ぜ合わせることにしたのか。そして、「古本マージナル」の屋号に込められた意味とは――。

 

「古本マージナル」の創業者・直志浩仁さん。

 

 

ものすごくおかしいと思ったんです

 

―― 初めに、直志さんが福祉の仕事をされるようになったきっかけを教えてください。

 

直志 熊本の大学から関東に出てきたのは、大学院で哲学の勉強をしようと思ったからです。だけど、それがダメだった。挫折してしまったんです。そこからは、どんな仕事をすればいいかも、どんなふうに仕事を探せばいいかもさっぱりわからなくて。全くの世間知らずだったんですよ。

しかも、熊本の頃から付き合っていた恋人と若いうちに結婚してね。私自身はひとまず塾や専門学校の講師なんかをやっていたんですが、先に彼女が福祉の仕事に就いたんです。

 

転機は、ある時に夫婦で精神障害者福祉施設の「クッキングハウス」(調布市)を訪れたことでした。そこでは「『おいしいね』から、元気になる場」とのキャッチフレーズが掲げられ、心の病を抱えた人々が孤立しないように食事づくりを通した交流が行われていたんです。その場の受容的な空気とキャッチフレーズに感銘を受けて、漠然と「人が元気になることを手伝う仕事がしたい」と思うようになったわけです。

 

最初の福祉の職場はケーキ製造を行う精神障害者共同作業所でした。「クッキングハウス」で芽生えた思いもあったので、そこで働くことにしたんです。もちろんケーキのつくり方なんてさっぱりわかりませんよ。パティシエからシュークリームのつくり方を習うものの、本当にたくさんのカスタードクリームをダメにしました。

 

―― 大学では哲学を学ばれたそうですが、福祉の仕事にはすんなりと馴染めましたか?

 

直志 ある意味では馴染めませんでした。今思えば、その当時の経験が「古本マージナル」の根幹にある考え方につながっているように思います。

 

〝ある意味で〟と言ったのは、つまりこういうことなんです。

私が最初に勤めた福祉施設は世田谷区にありました。当時の世田谷区は、精神障害者の作業所が20カ所ほどあるなど、その分野の先進的な地域だったんです。それにもかかわらず、福祉施設のスタッフは皆が口を揃えて「共同作業所は精神障害者の社会復帰のための施設だ」と言うんです。

 

私はこの考え方にどうしても馴染めませんでした。ものすごくおかしいと思ったんです。「社会復帰のため」という言葉は、裏を返せば「障害者は社会にいない」と言っているのと同じです。社会に障害者がいて、生きづらさがあるから問題なわけでしょう?ただ、スタッフたちには悪気なんてありません。むしろ、善意から「社会復帰のため」と言っているんです。

 

救いだったのは、腑に落ちる福祉の理論に出合えたことでした。言うまでもなく、障害者は私たちと同じ社会に存在する。そして、彼らは自らが抱える障害によって、社会生活のなかで何かしらの〝生きにくさ〟を感じている。そんな彼らにどんなサービスを届ければその〝生きにくさ〟を軽減できるのか。それを当事者とともに考え、サービスを提供するのが福祉なんだと。

 

 

「周辺」に追いやられてしまった人々が力を発揮できる社会を

 

―― その後、直志さんはご自身の理想の福祉を実現するために、精神障害者の福祉施設を立ち上げられます。そして、いくつかの施設で施設長を務められたあと、2009年に「浩仁堂」を立ち上げられました。どうして「古書籍商」と「障害者福祉」を融合させようと思ったのですか?

 

直志 12年前、施設長とはいえ福祉職は低賃金ですから、最初は副業として、個人で〝せどり〟を始めたんです。古本を安く仕入れて、それをアマゾンで販売する。すると売上が月ごとに10万円、20万円と伸びていきました。これは、施設作業にうってつけだと考えて、当時、施設長を務めていた職場で提案してみたんです。だけど、却下されてしまいました。だったら、自分でそんな場所をつくればいいと思って、立ち上げたのが古書店の「浩仁堂」だったんです。

 

その後、「浩仁堂」を経営母体として「就労継続支援B型事業所カバーヌ」「地域活動支援センターコット」などの福祉施設を立ち上げ、営業部門と福祉部門ができあがります。「カバーヌ」の利用者には、買取や販売、即売会の準備などの古書店のさまざまな作業を行ってもらい、報酬は工賃として支払っています。

 

「浩仁堂」の外観。現在は「古本マージナル」が古書店の機能を受け継いでいる。

 

―― 「浩仁堂」の販売部門を独立させて、別法人としてこの8月に新たに立ち上げたのが「古本マージナル」だそうですね。屋号にある「マージナル」に込めた意味を教えてください。

 

直志 「マージナル=marginal」を日本語にすると「周辺の」「境界にある」という意味になります。この言葉について考える際に、大学時代の講義で聞いたある話をいつも思い出すんです。

 

一般的に、啓蒙時代(ヨーロッパで啓蒙主義が主流化した17世紀後半から18世紀にかけて)は素晴らしい時代だったと受け止められがちです。なぜなら、中世とは異なり、科学が発展し、人々が人間を中心にものごとを考えるようになったからです。

 

しかし、当時の知識人が念頭に置いた「人間」というのは、キリスト教徒で壮年の白人男性でした。他の人種、異教徒、老人、女性、児童、障害者は「人間」には含められていなかったのです。つまり、これらの人々は社会の「中心」ではなく「周辺」に追いやられてしまったわけです。

 

先にお話した「社会復帰のため」という言葉は、現代社会の障害者に対するまなざしを象徴しているように思います。そうしたまなざしと、啓蒙時代の「人間」についての捉え方には通じるものがある気がしているんです。大人の男性で経済力のあるものが社会の中心にいて、高齢者・子ども・女性・障害者が社会の周辺か下手をすると社会の外に追いやられている。

 

私はそういう状況の理不尽さに怒りを感じる。だから、「周辺」に追いやられてしまった人々が力を発揮できる場所を構築したい。そんな思いを込めて、「マージナル」という屋号にしたんです。

 

 

すでに気持ちは次の事業に向いている

 

―― 「浩仁堂」では、作業を行う「カバーヌ」の利用者への工賃を日本一高水準にすることをビジョンに掲げられていました。この意図についてお聞かせください(就業継続支援B型の利用者への工賃の全国平均は時給換算で約200円。それに対して「カバーヌ」は現在約400円)。

 

直志 「日本一の工賃」というビジョンは、これまでお話してきた障害者の力を証明する指標として掲げました。時給換算で600円を目標にしましたが、まだ達成はできていません。今後、その工賃をどうしていくのかは、利用者の方々の意思をしっかりと汲み取ったうえで、カバーヌの現場を担う人々の判断に任せようと思っています。というのも、今後は福祉の面はスタッフに任せて、私は経営に専念しようと思っているからです。

 

私は、これまでにいくつもの福祉施設を立ち上げてきました。どちらかというと、日々の運営よりも起業に向いているんだと思うんです。なので、今はまだ「古本マージナル」を立ち上げたばかりではありますが、すでに気持ちは次の事業にも向かっているんです。

 

具体的には、2~3年のうちにはグループホームを開設したいし、うつ病患者のための

リカバリー施設なんかも構想しています。また、もう少し視野を広げて、女性の貧困対策に関しても何かできないかとアイデアを練っているところです。やっぱり、社会の「周辺」に追いやられている人たちや、抑圧されている人たちが、元気になることを手伝う仕事をしていきたいと思うんです。逆説的ですがそのためにもマージナルでの障害者スタッフとの日々を大切にしていきたいですね。

 

―― 最後に、「古本一括査定.com」に対するご所感をうかがえればと思います。

 

直志 「古本一括査定.com」の根底には「もっとより良い古書業界、あるいは社会をつくるためにはどうすればいいのか」といった思いがある。「自分たちだけが儲かればいい」なんて考えではないことがよくわかります。とても社会的意義の大きいサイトだと思っています。

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